みかぶし。

TW2『シルバーレイン』で活動中の南・成実(b80160)と同背後キャラ、及び背後の呟きや雑記。

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2011.09.05 Monday

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2009.12.27 Sunday

泣き言。

「――もォ、ヤです」
「……なんだね一体、藪から棒に」
 嘗てない程厭そうな顔をしている女の言葉に、流石の青年も眉を顰めた。


「もォ痛ェ目に遭うのヤダっつってンです」
 それを聞き、青年がははぁんと納得したような声を出す。
 恐らく彼女が云っているのは、先日行われた吸血鬼艦隊との大規模戦闘の事に相違あるまい。
「痛ェ目になら僕も遭ったんだけどなあ。しかも丁度君と同じ場所で」
「でもアンタはケロリとしてたじゃねぇですか」
 女が云う。
 然り。
 青年と女、共に同じ――絶望的な戦力差の戦場に立ち、敵の物量についぞ敵わず敗走した。
 にも関わらず、大怪我を負ったのは女ただ一人であった。
「瀕死の君を引き摺って逃げ遂せただけでも僕に感謝して然るべきだと思うんだけどなあ」
 青年もまた、反論する。
 それも然り。
 同じ戦闘不能に陥るにしても、青年の方にはまだ足手纏いを抱えて撤退する余裕があった。
 だがそれは現行では埋めようのない彼我の経験の差だ。
 女よりも青年の方が数多くの修羅場を潜ってきた事はどうにも覆しようがない。
 但し、その事が単純に二人の、能力者としての『質』の差であるとは云い切れない。
 無論、力量こそが能力者の、道具としての指標の一つである事もまた真実だが。
「今更云う事でもないけど、君は弱い。僕からすりゃ雑魚だ」
 だが然し、と青年が続ける。
「経験は場数を踏む事で、技量については研鑽を重ねる事でより研ぎ澄ませる事が出来る」
 それは学園に在籍し、模範的な能力者であり続けるならけして無理難題ではない。
「僕は君に『早く追いつけ』とは云ったが、『今直ぐ僕と同じ事ができるようになれ』とは云っていない筈なんだけど?」
 確かに。確かに、そうは云っていない。だが、けれども。
 女の冷めた、と云うより寧ろ乾ききった目が、青年に向けられる。
 これから先更に場数を踏む事が、研鑽を重ねる事が厭なのではない、と。
 多少の痛みも、怪異による様々な悲劇や喜劇を間近で観賞する為には仕方のない対価だと、そう思う事もできる。
 だが然し。
「……アンタぁ他人を必要としてねえじゃねえですか」
 ほう? と。女の唇が紡いだ意外な言葉に、云われた青年が面白がるような顔をした。
「僕が、他人を必要としていない?」
「はい」
「どうしてそう思った?」
 答えが出てくるまでに、一拍の間があった。果たして口にすべきか、出すにしてもどう云うべきか、それを思案していた間だ。
「アンタはやろうと思えば手前ェ一人で何でも出来るからです」
 一度口から出てしまえば、その口調は淀みない。テストの解答を読み上げる教師めいた淡白さで、女が続ける。
「最初は不思議に思いましたよ。なんでこんな男が秋サンを傍に置いてるのか」
「日々の雑務を自分でやるのが面倒だから、ってのは?」
 女が静かに首を横に振る。確かに、それも理由の一つかもしれない。
「アンタは他人任せでもいい事は直ぐに誰かにやらせます」
「そりゃあね。他人でも出来る事を、わざわざ自分でやる必要はない」
「それです」
 いつもなら『どれだ?』と茶化しているであろう青年は、僅かな笑みを浮かべたまま女の次の言葉を待っている。
「つまり、手前ェがやらなきゃならねえ、手前ェでどうしてもやりてえ事は、けして他人にはやらせねえんですよ」
「当然だな」
 ああ矢張り、と。であるなら必然的に。
「この物語……そう、物語ですな。それを一等いい席で最後まで眺めようってアンタが、途中で席を外すなんてこたァ、ありえないってこっちゃねえですか」
 女も、彼女にしては珍しく少し笑った。青年の顔には、未だ先ほどの笑みが張り付いたまま。
「あの時アタシに云った言葉……『もっと広い世界を見る為の力を呉れてやる』って、アレだって嘘じゃねえにしても、本音でもねえ」
「……」
「アンタがアンタでいる以上、アタシ程度の戦力は必要ない筈なんです。傍においておく理由があるとすれば、アンタに万が一の事があるか、その目でこの物語を見るのに飽いた時の、代わりの器としてだ。違いますか?」
 暫しの沈黙。ややあって……いいや、と。青年が漸く大儀そうに口を開いた。
「違わない。僕と会ってからの短期間で、よくそこまで分析できたな」
「……人間観察は飽きの来ない娯楽ですから」
 成る程なあ、と青年が納得したように頷く。言葉ほどに目を見開いたかどうかは、遮光硝子で隔てられて窺う事は出来ない。
「そうか。つまり君は、僕の代用品である事が厭だと」
「はい。最初から無用のモンと断じられるのであれば気にしません」
 今までの人生でもずっとそうでしたから、と。
「ですが、本来なら必要はないが、もしもの時の為の保険として必要とされる事ァ我慢ならねンです」
 アタシゃ手前ェが一等可愛いンで、と。女は未だ嘗てない程の真顔で、そう云い放った。
 再び訪れる沈黙。
 だが、静寂が破られるのに要した時間はそう長くない。
「決心は固そうだねえ。これは人選を誤ったかな?」
 聞こえた嘆息は誰のものか。
 それで? 青年が諦めの混じった声で云う。但し、その顔は然程残念がってはいない。
「呼ばれりゃあ、怪我しねえ程度にお手伝いはします。ですが……」
「自分から率先して事件に関わる事はしない、と」
 後を続けた青年の言葉に、女が無言で頷く。
 まあそう云う事なら仕方がない、と。
 さも残念でなさそうな青年の様子を見て、もう一つと女が付け加えた。
「その思考」
「あン?」
「期待がなければ失望もしない。それならアタシにもわかります……けど、そんなモンじゃねえ。アンタは手前ェを、他の人間も……いえ、恐らくはこの世のあらゆるものを『たかがゲームだから』と、割り切ってるように見えます」
 『たかがゲームだから
 それは、この世界の住人がけして口に出してはいけない言葉。
 故に、女もその言葉を発する事は出来なかった。けれど、恐らく彼女の予想は間違ってはいない。
 何故ならば、その言葉を聞いた青年が、これまで見た事もないような笑顔を見せたからだ。
 女は自説が正しい事を確信した。そして――だからこそ青年を、彼の持つものを受け入れる事が出来ないとも理解した。
 彼の代替品として力を受け取った瞬間、己もまた『たかがゲームだから』と割り切って考えるようになるかもしれないと。
 目の前の人間の形をした異なる思考の持ち主が理解できず。故に、自分もそうなるかもしれないと想像するだけで……
 怖い。
 怖い。
 恐ろしい。
 考える事もしたくない。
 女がもう厭だと云った、それが最大の理由であった。

2011.09.05 Monday

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