みかぶし。

TW2『シルバーレイン』で活動中の南・成実(b80160)と同背後キャラ、及び背後の呟きや雑記。

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2011.09.05 Monday

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2011.03.06 Sunday

示された明日

『そろそろ彼女が目を覚ますそうだ』
「ははあ。思ったよりも早かったですねえ……これでもかとやったつもりでしたが」
『医師団が随分と頑張ったからな……アレはお前に任せる。よく躾けろ』
「わかりました。ではこれから向かいます」
 その言葉を最後に、男は通話を終えて携帯電話を折り畳む。鼻歌混じりで駐車場へと向かう、彼の足取りは軽かった。


 夢を見ている。しかもとびきりの悪夢――目の前で弟を失う夢だ。
 既に何度目かも判らない。現実の自分はさぞかし喧しく魘されているだろう。
 今もまた、暗闇の中、申し訳なさそうな顔の弟が立っていた。
 次の瞬間、まるで絞首台の足元が抜けるように(実際に見たことはないが)、弟がその場から落下する。
 慌てて駆け寄り手を伸ばすも、いつもと同じ、すんで所でその手を掴み損ねた。
「祐喜!」
 弟が落ちた穴を覗き込んで、声の限りに叫ぶ。弟の姿は欠片も見えない。遂には身を乗り出し、穴の中に手を伸ばした。
「くっ……祐喜! 聞こえてたら掴んで、お願い!」
 これまで通り、待てども待てども穴の中から返答はない。
 それでも、どれほど待ったか。やがて暗い穴の底からか細い声が聞こえて――誰かが、確りと成実の差し出した手を掴んだ。
「……成実? どうして……ねえ、どうして」
「祐喜……よかった、無事で……」
 声はすれども姿は見えない。だが、今まで何度も掴み損ねた弟の手をやっと掴めた喜びを胸に、成実はそれを穴から引き摺り上げ――

 目を覚ました成実の視界へ最初に飛び込んできたのは、見覚えのない天井。
 思わず跳ね起き、呆けた頭で状況を把握する事数秒。此処が病室だと理解するのと同時に、自分の右手が何かを掴んでいる事に、漸く気付く。
「やあ。おはよう、南・成実君」
 成実が視線を向けた先、彼女が掴んでいる腕の主――弟を殺した張本人は、茶飲み友達にでも向けるような気の抜けた笑顔のまま、
「いやあ目が覚めてよかった。ついボコボコにしちゃったけど、殺すつもりはなかったからねえ」
 ここ数日本当に心配したんだよ、と臆面もなく云い放った。
「巫山戯るなッ!!」
 成実とて無論、そんな男の言葉に懐柔されるほど莫迦でも冷め易い性格でもない。
 掴んでいた腕を離し、両腕で男の胸倉を掴んで食って掛かった。全身が軋みをあげるが、再燃した憤怒の前では僅かな痛痒に過ぎない。
「なんであたしを誘拐した! なんで祐喜を殺した! お前一体誰で、なんなんだ!? 答えろ、今直ぐ!!」
「……南君。いい事を教えてあげよう」
 気の弱い人間ならば失神し兼ねない気迫。
 だが然し、胸倉を掴まれ恫喝されている筈の男の貌は涼しいものだ。胸倉を掴んでいる成実の手の上にそっと己の手を重ねて、諭すような調子で云う。
「まず、病院では静かにすること。それと……」
 ポキン。
 その音は、男が触れている成実の手の辺りから聞こえてきた。何の音かと怪訝そうな顔をしている成実に男が手を開いて見せたものは、人間の指の形をした4本の氷だった。
 それが一体なんなのか直ぐにはわからなかったが、男の視線の先、己の左手の感覚が――否、左手の人差し指から小指までの4本の指が付け根からなくなっている事に気付いて、漸く成実も悲鳴を上げた。
「嘘、嘘! なに、なんで、これ、あたしの指が!」
 右手で触った左手は、手首まで完全に凍りついている。痛みはなくても体の一部を失った事実は、激憤を一瞬で焦燥へと変えた。
「キミは中学生、僕は大学生。長幼の序は守りなさい」
 そう云った男は、まるで聞き分けのない犬を見るような目で成実を見下ろし、無造作に彼女の指をベッドの上へ放り投げた。
「さて……キミの弟さんはキミの留守中、不幸にも物取りに殺された」
 口から出かけた成実の反論を遮って、続ける。
「従ってキミは天涯孤独の身となった。僕は、そんなキミの後見人、西・竜彦といいます。宜しく」
「…………は?」
 聞き捨てならない単語に、思わず成実の目が丸くなった。そんな理解の遅い彼女を待つ優しさなど、勿論男にある筈もない。
「以上が質問の答え。手続きはもう済んでるから諦めること。今後、キミには銀誓館学園に編入して貰う」
「……なんであんたなんかの云うこと聞かなきゃいけないんだよ」
 一方的な会話に不満を募らせた成実が、射るような視線と共に思わずそう口にしたのも無理はない。が。
「――ひ!?」
「いいかね……キミはもう人間じゃない。僕と同じ、能力者って化け物になった。化け物を人間社会に放す訳にはいかない」
 毒蛇のように素早く伸びた男の手が、成実の耳を掴んでいる。一切の温情を含まないその目が、今度は耳にするか? と云っていた。
「纏めて檻に押し込んで、ごっこ遊びをさせて、いざと云う時には化け物同士潰し合って貰う。その為の場所が銀誓館学園、日本最大の能力者組織だ」
 言葉も出ない成実を見下ろし乍ら、男が続ける。
「僕らがキミに求める事はそう多くも難しくもない。使い勝手のいい道具である事と、常にその性能を向上させようと努力する事だ」
 学園でだけはと云う但し書きがつくものの、それ以外は好きにしていいよ、と。男が手を離すと、成実は強く己の手を握り締めて俯いた。
「あの時、キミを殺そうと思えば簡単にできた。そうしなかったのは、まあ……僕の優しさだと思って呉れていい」
 後半部分は極上の笑みで彩られていた。一瞬顔を上げた成実だが、それを見て直ぐにまた視線を外して俯く。
 それじゃあ、と。云うべき事は云い終えたのか、お大事にね、と云い残して男が病室を後にする。

 独り残された成実の頬を、涙が伝って落ちた。
 護ってくれる両親も、支え合う弟も失って、この世界に独りきりになった事実。あのままあそこで弟と一緒に死ねたら、どれ程よかったか。
 抵抗らしい抵抗もできず、ただ翻弄され嬲られる己の無力さを思うと、また涙が出てきる。
 この時の彼女はまだ、ただ泣くしか己の内に渦巻く感情を鎮める術を知らなかった。

2011.09.05 Monday

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