みかぶし。

TW2『シルバーレイン』で活動中の南・成実(b80160)と同背後キャラ、及び背後の呟きや雑記。

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2011.09.05 Monday

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2011.03.03 Thursday

離別と邂逅

「別に逃げ出してもいいよ? お姉さんは僕らが保護してるって事を忘れてなければ、ね」
 聞き分けのない生徒を諭す教師のような顔で、男が少年に死刑を宣告した。
 これは、南・成実が銀誓館学園に編入する二週間前の話。


 にわか雨の中、成実は走っていた。
 いや、走っていたなどと云う生易しいものではない。
 駆けていた。息が切れようが体が悲鳴を上げようが、全身全霊を以って、疾駆していた。
 道でぶつかりそうになった相手からは悪罵を投げられ、近隣住人からは奇異の視線を向けられる。
 だが今はそんな事に構っている暇はない。一秒でも早く弟の元へ駆け付けねば、と。彼女の頭にはそれしかなかった。

 双子の弟が待つ筈の我が家まで、交差点を二つ。距離にして約500m。
 脚が縺れ転びそうになり乍ら交差点を曲がる――あと300m。
 もう動けないと膝をつきそうになる自分を叱咤して、足を動かす――あと150m。
 急がなければと思う反面、もう手遅れなのではと云う不安が鎌首を擡げる――あと50m。
 我が家の玄関が見えた。靴底が削れそうな勢いで急ブレーキをかけ、一息にドアを開けた。
「祐喜ッ!?」
 肺から搾り出した最後の空気で弟の名を呼ぶが、厭に静まり返った室内からの応えはない。
 呼吸を整える間さえ厭うて靴を脱ぎ捨て、一路弟がいる筈の寝室へと向かう。この家では誰も吸わない煙草の匂いが鼻を突いた。

「――祐喜、無事なの!?」
「残念だけど手遅れだね」
 寝室へと飛び込んだ成実の言葉に応えたのは、若い男の無情な声だった。
 携帯電話片手に紫煙を燻らす彼の足元に臥しているのは、誰であろう弟の姿。
 思わず駆け寄ってその体を抱き上げた成実は、男が既に手遅れと云った意味を悟って愕然とする。
 呼吸はしていない。鼓動も感じない。何より、いつも明るく笑っていた弟の顔には、タールのようにべったりと絶望が張り付いている。
 其処で漸く成実も悟った――この男が、弟をこんな目に遭わせたのだと。
「監視の連中が半殺しにされてる? 凶器はなし、そう……そう」
 男の口から漏れる言葉は既に彼女の耳には入っていない。正確には、入ってきても反対の耳へ抜けている状態だ。
 そも、今はもうそんな事はどうでもよかった。沸々と頭の芯が熱く煮え滾っているのがわかる。
 これは憤怒だ――帰宅途中に突然拉致され拘束された怒り、そしてその間に半身であり最愛の弟を奪われた怒り、その犯人が目の前にいる怒り、間に合わなかった己への怒り。
「……お前……」
 最早それは憤怒などと呼ぶのすら生温い。成実の内で滾る激憤は、今や彼女を憤死寸前にまで追い詰めていた。
「お前……」
「ああ、10分後に着くように迎えの車を寄越して呉れ。多分……」
 成実の眼差しを受けて、男も漸く彼女の方を見た。憎悪に濁る彼女のそれと比べ、静かに煙草をふかす男が成実を見る目は、吠え掛かる野犬を見る目に等しい。
 成実の中で何かが切れた。己を拘束していた男達を半殺しにした時よりも、尚激しく。
「おまええええええええええッ!!」
「荷物が増える」
 成実が吠える。鼻で哂った男が電話を切る。
 奥歯が砕けるほど歯を噛み締め、血が滴るほど握り締めた右の拳を、ただ感情のまま男に叩きつけた。

 ――が。その拳が男の顔面を砕く事はなく、横腹に強い衝撃を受けた成実は逆に床の上に転がされていた。
「断罪ナックル……処刑人か」
 男が得心したように云った言葉も、今の彼女には理解できない。辛うじてわかったのは、擦れ違い様に打たれた左の鉤突き。打たれた箇所は凍っていた。
「げ、かふッ……は……!」
 既に限界近かった事もあるが、指先一本動かせない。与えられた痛みは呼吸の自由さえも奪い去った。
「あーあー。折角優しい弟さんがキミの為に死んで呉れたのに……姉の方はまた因果な生き物になっちまったこと」
(「死んだんじゃない、殺したんだろうが!」)
 そう罵りたくても、その体は最早一言分の空気も都合できない。為す術ない自分が悔しくて、視界がぼやけた。
「次に起きた時、何もかも教えてあげよう。ようこそ、死と隣り合わせの青春へ」
 何を云っているのか。兎に角、憎くて悔しくて悲しくて。煙草の匂いが矢鱈と鼻について。
 滲む視線の向こう、男の掌に現れた植物の槍が振り被られ――

 次の瞬間、成実は遠のく意識を手放した。

2011.09.05 Monday

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