みかぶし。

TW2『シルバーレイン』で活動中の南・成実(b80160)と同背後キャラ、及び背後の呟きや雑記。

<< October 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

<< <満月の夜は一人にしないで>プレ。 | TOP | ぎぎぎぎぎ。 >>

2011.09.05 Monday

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています


| - | - | -
2011.01.21 Friday

ひとでなしのひととなり。

 西・竜彦はひとでなしである。


 とは云え、彼が人間らしい心を持っていない訳ではない。
 困っている年寄り子供がいればそれなりに助けるし、雨の中で捨て犬を見つければ拾って飼い主探しをしたりもする。
 恩と義理は忘れず、礼儀もそつなくこなす。弁える所はきちんと弁えるのが彼だ。
 特に法の埒外で生きてはいないし、社会通念や規範を軽んじている訳でもない。
 寧ろ、共同体の中で生活する者は、その共同体のルールを(独自の解釈で曲解する事もままあるが)守る義務があると考えてもいる。
 人付き合いが悪い訳でも下手でもなく、その辺のあしらいは実に要領が良い。
 友人と呼べる相手はそれなりにいるし、恋人と云うものもいない訳でもない。

 だが。
 西・竜彦はひとでなしである。

 ――彼が銀誓館学園に転校する、少し前の話をしよう。
 今でこそ己の能力を無理なく手懐けている竜彦だが、世界結界が綻びかけた時分にはそれを上手く制御できずにいた。
 無論、嘗ての友人や家族と云うべき相手からは、恐れや不安混じりの眼差しを向けられる。
 好き好んで彼に近付く者は誰もおらず。お互いに歩み寄る気がないのだから、周囲との軋轢は当然の結果だった。
 とは云え、竜彦自身はその孤独を否定的には見ていなかったろう。
 周囲の反応よりも寧ろ『たかが能力の一つ満足に御せない自分』に、彼は苛立っていた。
 醜態を見せずに済むなら、それに越した事はない。努力と云うのは他人に見えないようするものだ。
 常々そう考えている彼にとって、孤独は寧ろあり難いくらいだった。
 
 だがまあ蓼食う虫もなんとやら。奇特な人間と云うのはどこにでも居るもので。
 そんな状況下の竜彦にさえ、口では面倒だと云い乍らも臆さず近付いて世話を焼く、よく云えば面倒見の良い、悪く云えばお節介な相手が一人だけいた。
 同級生の少女だった。特にお互い恋愛感情は懐いていなかったが、友情は懐いていたかもしれない。
 彼女が近付くと、竜彦の方も余計なお世話と口では云いつつも拒絶する事はなかった。
 彼も彼なりに、彼女を大事にしていたのだろう。彼は、大切に思う物や相手を無碍に扱う事はしない。

 だが、それでも。
 西・竜彦はひとでなしである。

 破綻は突然訪れるものだと竜彦が悟ったのは、銀誓館に転校する一ヶ月前だ。
 ただの不注意と云えばそれまで。本当に運悪く、彼女が階段から転落した。
 この時ばかりは流石の竜彦も驚き、直ぐ様彼女に近付いて――彼女が『死んでいる』事を確認した。
 にも関わらず次の瞬間、彼女は「ああ痛かった」とバツが悪そうな顔をして立ち上がったのだ。
 怪訝そうな顔をしていた竜彦に、なんでもないよと笑い乍ら。
 そんな筈はない、キミは今死んでたろう? と、この時云いそびれた事を、竜彦は柄にもなく後々まで後悔する事になる。

 『本社』に呼び出されたのは次の日だ。
 能力研究用の実験室で彼女を見つけた時、竜彦の心中に去来したのは「ああ、矢ッ張りか」と云う思いだった。
 竜彦がこの部屋でする事は、いつも同じだ。能力を安定制御し思うまま使用する為の実地訓練。
 相手はモルモットや猫、大きいものでは犬などで、ゴーストを相手取った事は一度もなかった――今までは。
「これはつまり、そう云う事ですか?」
「つまりは、そう云う事だ」
 強化硝子の向うで腕を組んでいる『姉』に尋けば、即座に応えが返ってくる。
 だが、そも、尋く必要さえない問いだった。竜彦には目の前の『彼女』が何なのかが、既に判ってしまっている。
 余程手荒な真似をされたのだろう、彼女の身には竜彦が何かをする前から幾つもの傷がついていた。
「……西、く……ん?」
「残念だ」
 心中を率直に表すなら、残念の一言に尽きる。
 眼前の彼女は地獄に仏を見たかのような顔をして、縋るような眼差しを向けてくる。
 その視線を受け止めた竜彦は、相手を安堵させる穏やかな笑みを浮かべて、
「『生きてた彼女』にさよならを云いそびれた」
 まるでガスコンロに火をつけるかのような自然さで、躊躇なく彼女に炎を放った。
 ぎゃあ、と彼女の悲鳴が実験室に響く。それは耳を劈くほどの音量だったが、竜彦は構わず二射目を放つ。彼女が転がって火を消そうとしても、アビリティに因る炎はそう簡単には消えて呉れない。
「なんでよ、西君……なんでこんな事するの……!?」
 死んで間もない少女は、生前の記憶も感情もそのまま残っていたのだろう。昨日まで笑い合っていた友人に攻撃されているという事実は、彼女を叩きのめすには充分過ぎる。
「やめてよ、やめて……あたし達、友達だったんじゃないの? 西君は……あたしの事、死んでもいい奴だって思ってたの!?」
 やめて、お願い、と。疑問はやがて嘆願となっていた。それでも、
「三枝君の事は友達だと思ってたよ。僕は彼女の事、嫌いじゃなかった」
 じゃあ、と云う彼女の言葉は続かない。竜彦の放つ炎が喉を焼いた。
「けど、彼女はもう死んだ。彼女の姿をしてて、同じ声、口調で喋って、記憶も感情もあったとしても――キミは三枝君じゃない」
 だから死ね、と。
 其処には一片の情も含まれてはいない。凍った鉄塊に物云わせても、まだ聊か温かみはあろう。
 駄目押しのように再度炎を投じ、嘗ての友人が人炭に変わる様を、竜彦は顔色一つ変えずに――否、口元に僅かな笑みを浮かべて見ていた。
「フレイムキャノンは全て暴発もせず制御されていた。今までになかった事だが……楽しそうだな、竜彦?」
 達成感は感じなかったし、不思議な事に、特に悲しいとも思わなかった。
 実験動物を見る目で己を見つめる姉の言葉にも、ただ「成る程、楽しんでいるのか」と思っただけだ。
 寧ろ、今まで自分さえ気付かなかった欲求に気付いた事に僅かな驚きと高揚を覚えている。
 ――ただまあ、彼女の事はほんの少しだけ残念ではあった。
 生前の彼女を、恐らく自分は本当に大事に思っていたのだろう。それは確かだ。
 それが永久に失われてしまった事は、矢張り残念なのだろう。が、
「どんなに好きで大事でも、死んじまったら仕方がねえやな」
 竜彦が大切に思っていたのは、生きて喋る彼女だ。
 死は永遠のコミュニケーションの断絶だと考えている彼にとって、死の瞬間からそれは大切なものでなくなる。
 思い出の中にそっと仕舞い込み、時折引っ張り出して偲べば、それで充分だ。
 いかにそれまで大事だったものでも、そうでなくなった途端に執着しなくなる。
 この明確な線引きこそ、竜彦が竜彦である由縁であると云えよう。

 変わり果てた友人に最早一瞥さえくれず実験室を後にしようとした竜彦に、姉が「感想は?」と問う。
 果たして彼は、己の服についた黒い埃を目にして、
「煤で汚れた」
 と、不快げに一言だけ呟いた。

 最後に、改めて云う。
 西・竜彦は正真正銘のひとでなしである。

2011.09.05 Monday

スポンサーサイト


02:04 | - | - | -

コメント

コメントする









▲top